淡墨の桜 宇野千代
さくらは幸福の花 私は桜が大好きです
私の言う「花」は いつもさくらの花のことなのです
岐阜県根尾村にある淡墨の桜との運命的な出会いは 昭和四十八年のことでした
その時 樹齢千五百年 枝の広がりが2反半という老樹は枯死寸前の運命にありました
もう一度 この桜に万朶の花を咲かせたいと私は思いました
その一念が実り 多くの人々がこの桜を助けるために力を尽くし 桜は見事に蘇生したのでした
今 この桜は毎年万朶の花を咲かせ 何万人という人々が 根尾の山里にかけつける様になったのでした
桜は 私にとって幸福の花なのです
老いてなお、満開の花をつけた「淡墨の桜」
千代は その老樹を密かに自分になぞらえ 同名の小説で「人生とは何か」を問いかけました